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<東立通信工業>(非上場、横浜市中区)

債権者説明会開催。負債の4割が労働債権、7カ月分が未払い
2006年9月7日

 7月25日に破産申請、8月18日に破産手続き開始決定を受けた電源機器メーカー、東立通信工業の説明会が9月6日午後2時から神奈川県立県民ホールで開催された。会議には債権者など148人が出席、会社側からは小島誠哉社長と破産管財人の橋本吉行弁護士(TEL045−664−4178)など弁護士が出席した。会議では事情説明の後質疑応答で9人が質問に立ったが会社側弁護士が対応、既に破産が決まっていることもあり、紛糾することもなく、2時間あまりで散会した。

 席上配られた資料によって明らかになった負債は総額46億3,000万円で、その内訳は別表の通りだが、特筆すべきは労働債権が17億3,000万円と全体負債の4割近くを占めている点。この労働債権の内訳は退職金が13億9,000万円、未払い給与が3億4,000万円だが、未払い給与については、8月2日に既に従業員は全員解雇されているが「ほぼ全員が7か月分の給与を受け取っていない」とするなど悲惨な状況も明らかになっている。未払い給与の請求をすると解雇を言い渡されるなどの事例もあったもようで、一般債権者以上に従業員が一番の被害者だったという印象も強い。

 破産申し立て時の従業員は146人で、内訳は横浜本社43人、大野工場(福井県大野市)66人、白河工場(福島県西郷村)37人、破産申し立て前退職従業員のうち給与を受け取っていない者は174人で、うち3人は重複しているため、合計労働者数は計317人となっている。

 また一般債権に相当するのは、手形・小切手分1億9,000万円、買掛金1億4,000万円、未払い費用1億4,000万円など合わせて4億7,000万円とみられ、全体の約1割。さらにこの数字も一部は納品をしておらず実態のないものも含まれているもようで、一般債権者として実際に大きな被害を受けた会社はそう多くないとみられる。当サイトでも春先に経営不安を報じたように、各社とも昨年から東立通信工業に対しては危機感を強めていたもようで、最近は現金取り引き、しかも即金での取り引きのみになっていたというところがかなり多かったもよう。

 なお現状としては、7月22日の操業を最後に突然工場が閉鎖されたため、ライン上にはまだ多数の仕掛品が残存したままで、完成品や部材も多数工場内に残存するとしている。今後は破産管財人が主導してこうした関係製品を一括前金を前提に処分して弁済にあてることになるが、前述のような労働債権の状況から照らすと、一般債権への配当はほとんど絶望的といえる。一部従業員の独立による事業継続などが模索されていたとする周辺観測もあったが、最早こうした可能性も小さそう。

 なお席上、会社側が説明にあたった「破産にいたった事情」を要約すると、2000年から始めたスロットマシン用電源事業の失敗が行き詰まりの最大の原因として挙げられている。

 もともと東立通信工業は、NHKや防衛庁などしっかりとした売り先を持っていたのだが、2000年ごろからスロットマシン遊技機用の電源受注を開始し、翌年にはバージョンアップした同品用の生産に際してその費用を押さえるため大量に材料を調達したのだが、折しもこのスロットマシン用電源が原因と思われる焼損事故が発生、同品の製造が中止となり経営悪化を招いた。当時、同品は大野工場の生産の過半数を占めるなど主力化していたこともあり、一気に経営が悪化したもの。その後はさらに海外工場との競合から受注が減少するなど影響も重なり、2004年には一時的に売り上げが拡大したがこれは大半が発注の前倒しだったために逆に2005年にはその反動から悪化が厳しくなり、ついには過剰在庫などから金融機関からの借り入れも不能になるなど事態も招き、最終的には行き詰ったもの。

 早い時点で民事再生法など再建型の法的申請を行っていればまた違った形の結末もあったと思われるが、これについては「金融機関の評価が芳しくなく、実現しなかった」とする。また今春の時点ではまだ「支援を名乗り出る会社も数社あった」としているが、結局は代表交代などからこうした話もまとまらず、従業員への給与未払いなどを続けて不渡りを回避し続けてきたが、結果的にはこうした形での事業継続は傷を広げるだけとなった。

◇負債の内訳(百万円)
科目 件数 債権額
借入金 17 1,850
手形・小切手 63 190
買掛金 225 140
未払いリース 14 70
労働債権 317 1,730
未払い費用 166 140
公租公課 55 510
合計 857 4,630

◇過去3年間の業績(百万円)
  売上高 経常利益 当期利益 純資産
03年12月期 4,862 −172 −525 1,525
04年12月期 6,304 263 −863 198
05年12月期 2,904 −189 −1,505 −1,303