オーディオ機器メーカーをめぐる市場環境は大きく変わった。時代とともにニーズが変わるのは避けられないが、メーカーは生き残るために、その変化に対応していかなくてはならない。
かつては、音楽を聴くためにはオーディオ機器が必要なのは当然のことだった。しかし今は、スマホや携帯型デジタル音楽プレーヤで気軽に音楽を楽しむことができる。ソフトもレコードやテープからCDになり、さらに音源をダウンロードすればCDさえ必要ない時代になっている。音楽を聴くにはスピーカさえあればいいという時代になってきている。
こうしたなかで、オーディオ機器メーカーが大きく変化を遂げていくのは当然のことである。かつてはプレーヤ、イコライザ、スピーカなどを組み合わせたコンポがまさにオーディオ機器だったが、今ではこれらは高級オーディオとして残っているだけである。
車載オーディオも同様である。ラジオとともに音楽を楽しむという時代から、カーナビと一体化するようになり、さらに今後はコネクテッドカー、自動運転化などとの連携も求められる。
かつてオーディオ機器メーカーとして抜群の知名度があったクラリオンとパイオニア。クラリオンは車載用が主体ではあるが、ともにオーディオ機器として人気のあったブランドであることに変わりはない。その両社は、奇しくもクラリオンは3月25日、パイオニアは3月27日に上場を廃止することが正式に決まった。東証はクラリオンの上場廃止を3月7日に、パイオニアの上場廃止を翌8日に、相次ぎ正式発表した。
かつてのライバルメーカーがまったく同時期に上場廃止となったのは、単なる偶然とは言い切れない。やはり背景にはオーディオ機器市場の変化という大きな流れがある。
<クラリオン>
3月7日付でフランスのカーナビなど車載機器・自動車部品メーカー大手、フォルシア・エス・イー傘下に入ることが正式に決まり、3月25日付で上場を廃止する。
クラリオンは、もともと日立製作所の子会社で、日立製作所が発行済み株式の63.81%を握っていた。今回のフォルシア傘下入りでは、フォルシアが子会社のエナップ シス エスエーエスを通じて株式公開買い付け(TOB)を実施、日立製作所はこれに応じて所有する全株式を譲渡している。エナップ シス エスエーエスは、日立製作所からの譲受分も含めてTOB全体でクラリオン発行済み株式の95.28%を握り、さらに全額出資化を目指す。
日立製作所がクラリオンの筆頭株主になったのは2004年である。クラリオンと日立製作所は、カーナビの基礎技術で協力関係にあり、資本提携によって関係をさらに強化していく狙いだった。日立製作所はもともと日産自動車系で、日立製作所としても当初は15%弱の株式を取得しただけだったが、徐々に持株比率を引き上げてきた。
クラリオンは、日立製作所と提携後、2006年には子会社となり、上場を維持しながら日立製作所グループの車載機器メーカーとして存在感を示していた。しかし日立の再編もあり、今度は新たにフランスの車載機器メーカー大手、フォルシア傘下で再出発することになった。
<パイオニア>
パイオニアももともとはホーム用と車載用と双方を手がけており、ホーム用としてはLD(レーザディスク)など一時代を築いた技術もあった。
しかし18年3月期まで2期連続で最終赤字となるなど経営状態が悪化するなか、香港投資ファンド、ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(略称BPEA)の完全傘下に入り、経営を立て直すことになった。東証は3月8日に、パイオニアが3月27日に上場廃止となることを発表した。
パイオニアは、BPEAからの増資の受け入れで同社の傘下に入る一方、金融機関からの借入金返済期日が迫るなか、同社からの融資でこれを乗り切っており、かなりギリギリでの選択となった。
今度はBPEA傘下で、自動運転に欠かせない地図データを活用して走行中の自動車に様々な情報を提供するソリューションビジネスなどの本格事業化を目指す。一方では全体従業員2万人のおよそ15%にあたる3,000人の人員削減にも踏み出す構えで、文字通り経営の立て直しに取り組む。
ちなみにパイオニアのホームオーディオ機器、電話機、ヘッドホン関連事業などを中身とするホームAV事業については、2015年にオンキヨーに事実上売却されている。現在同事業は「オンキヨー&パイオニア」として運営されており、パイオニアのホームオーディオはブランドとしては残っているが、パイオニア本体からは既に切り離されている。
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