上場各社の16年3月期業績および17年3月期予想がほぼ出揃った。今回は、第1章で電機・エレクトロニクス業界動向の指標となる総合電機大手8社の業績を、第2章で電子部品製造の上場45社の業績をそれぞれ総括、電機・エレクトロニクス業界の足元と今後の見通しを探る。
電機大手は好調企業と不調企業で色分けされているが、総じて厳しい。少なくとも前期について、好調あるいは堅調だったと言えるのは、ソニーとパナソニック。逆に厳しい経営不振が続くのは東芝とシャープ。残る日立製作所、三菱電機、NEC、富士通もいずれも減益基調で、東芝やシャープほどではないにしても、市場大手には停滞感が強かった。
8社のうち、前期が増収だったのは日立製作所と三菱電機の2社だけで、それも日立製作所は前期比2.7%増、三菱電機も同1.6%増だから実際には微増、ほぼ横ばいに近い。ほかの6社はいずれも微減で、シャープは11.7%減と2ケタ減収だった。
また利益面では、ソニーとパナソニックの堅調ぶりが目立ったものの、実際にはソニーは15年3月期の赤字からの黒字回復であり、パナソニックも13年3月期までは2期連続赤字だった。ともに業績堅調というよりは、まだ回復基調にようやく転じた、あるいは定着化し始めたというレベル。
そのソニーは、前期は回復したが、その回復を支えて牽引役だったCMOSイメージセンサが熊本地震の影響で大きな損害を受けた。CMOSセンサなど最先端映像デバイスを生産しているソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの熊本テクノロジーセンター(熊本県菊池郡菊陽町)は、4月14日の熊本地震前震以降操業が止まり、5月21日からウエハ工程を再開、8月末には全面復旧できる見通しだが、その影響は小さくなく、ソニー側では工場の被災による今期業績へのマイナス影響は1,150億円とみている。これは今期の圧迫材料となる。
一方業績悪化が深刻なのはシャープと東芝。シャープは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業傘下での再出発が決まっているため、今後は鴻海主導の再建に身を委ねるしかない。社員の意欲は経営体制の変化とは関係なく、新製品を続々と出しており、意欲がにじむが、一方で大幅な人員削減や事業内容再編の噂はあり、気になるところ。また東芝は、白物家電の売却はともかく、業績面でも「孝行息子」で将来性もあった医療機器事業まで手離しており、危機感が滲むと言えばそれまでだが、迷走感が強い。好調な「医療機器」を売却して、「原子力事業」を残して注力していくという経営判断が正しいかどうかは難しいところ。
日立製作所、三菱電機、NEC、富士通の4社は、いずれも本業の利益を示す営業段階では減益だった。また日立製作所は営業では微減だが最終では2ケタ減益、NECは最終の当期純利益は増益だが営業段階では2ケタ減益、富士通は営業段階以下すべての項目で30%以上の減益であり、厳しい結果だった。
いずれもスマホ市場の減速や中国の成長率鈍化が響いている。各社のなかで比較的堅調だったのは、日立製作所では情報・通信システム部門、三菱電機は自動車市場向け、富士通は官公庁向けなどだが、全体を大きく牽引するまでには至っていない。
一方8社の今17年3月期については、パナソニックとNECが決算基準をIFRSに変更するため対前期比表示を行っていないほか、シャープが今期予想を開示していないが、パナソニックだけが微増予想で、ほかの会社はすべて売り上げが減収となるという予想を立てている。また利益面でも前期が大幅欠損な東芝が黒字回復予想なほかは、ソニーだけが営業増益見通しで、そのソニーも地震の影響から当期利益は減益予想という構図となっている。東芝の黒字回復も実際のところは不透明で、電機大手の停滞感はかなり根深い。
◇電機大手の16年3月期業績と17年3月期予想 (上段金額・百万円、下段増減率・%)
社 名 |
16年3月期実績 |
17年3月期予想 |
売上高 |
営業利益 |
当期利益 |
売上高 |
営業利益 |
当期利益 |
日立製作所 |
10,034,305 |
634,869 |
172,155 |
9,000,000 |
540,000 |
295,000 |
2.7 |
-1.0 |
-20.8 |
-10.3 |
-14.9 |
0.1 |
ソニー |
8,105,712 |
294,197 |
147,791 |
7,800,000 |
300,000 |
80,000 |
-1.3 |
329.2 |
黒字回復 |
-3.8 |
2.0 |
-45.9 |
パナソニック |
7,553,717 |
415,709 |
193,256 |
7,600,000 |
310,000 |
145,000 |
-2.1 |
8.8 |
7.7 |
- |
- |
- |
東芝 |
5,668,688 |
-708,738 |
-460,013 |
5,100,000 |
120,000 |
100,000 |
-7.3 |
- |
- |
-10.1 |
黒字回復 |
黒字回復 |
富士通 |
4,739,294 |
120,612 |
86,763 |
4,600,000 |
120,000 |
85,000 |
-0.3 |
-32.5 |
-38.0 |
-2.9 |
-0.5 |
-2.0 |
三菱電機 |
4,394,353 |
301,172 |
228,494 |
4,280,000 |
260,000 |
200,000 |
1.6 |
-5.2 |
-2.6 |
-2.6 |
-13.7 |
-12.5 |
NEC |
2,821,181 |
107,306 |
68,749 |
2,880,000 |
100,000 |
50,000 |
-3.9 |
-16.2 |
20.0 |
- |
- |
- |
シャープ |
2,461,589 |
-161,967 |
-255,972 |
- |
- |
- |
-11.7 |
- |
- |
- |
- |
- |
注)パナソニックとNECは今期からIFRS基準を採用。シャープは今期業績予想を非開示
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第2章:電子部品製造45社では逆に大手が好調(一部のみ抜粋) |
第1章で電機・エレクトロニクス業界動向の指標となる総合電機大手8社の16年3月期業績および17年3月期予想を検証したのに続き、第2章では電子部品メーカーの上場大手の業績を総括する。
上場電子部品メーカー全体では、弊社集計では45社のうち19社が増収、最終増益は10社で、さらに売上高と利益項目ですべて増収増益だったのは、6社にとどまった。その6社は、村田製作所、日本電産、TDK、太陽誘電、フォスター電機、大真空で、このうち大真空は前年が赤字だったため、本当の意味で続伸だったのは5社。その5社は売上高ランキングでいずれも上位10社に入っており、電子部品メーカーについては規模が大きいところほど前期は総じて業績がよかったことになる。
45社合算では、売上高は対前年比微増収の3.0%増、営業利益も同6.8%増だが、経常利益以下は減益で、経常利益は同2.1%減、当期純利益は同6.1%減だった。総じて売上高および営業利益は堅調だったが、円高進行などによる営業外損益や特別損益の悪化が影響して、経常損益以下では前年を下回ったところが多い。
ちなみに下表で上位20社の業績を一覧で挙げたが、表に挙げなかった21位以下のところをみると、21位から45位までの25社だけだと、前期が最終増益だったのはわずかに3社にとどまる。21以下で最終増益だったのは、SMK、日本電波工業、前出大真空で、このうち日本電波工業と大真空は前年の最終赤字からの回復で(日本電波工業は減収と最終黒字回復、SMKは経常段階では減益)、いずれも続伸とは言いにくい。やはり大手の好業績が目立つ結果となっており、前述全体合算の数字も好調大手が伸び率を上乗せする構図になっており、16年3月期は上場といえども下位メーカーは活況だったとは言いにくい。
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